掌には小さなガラス玉。
空の色を写しているのだろうか、ほんのりと色づいている。
幼い頃母から聞かされたおとぎ話を思いだす。
「思い出は忘れてしまうとなくなってしまうんじゃないの。お空に混じってね、みんなに届くのよ」
なら、このガラス玉の中の景色は、他の人に届かなかった誰かの思い出なのだろうか。
僕にはちょっとした超能力があった。
町に降る硝子玉の在処を探り当てられるということ。
そしてガラス玉を覗き込むと誰かの思い出を見ることが出来るということ。
友人の聡にはおもしろがられているけど、あまり役に立つものではない。
何かが足りないような、でも至って普通の高校生活を送っていた僕。
たしか去年の今頃だったと思う。手紙が僕の元へ届いたのは。
手紙に誘われるように僕は幼い頃別れた母の元へと向かった。
お気に入りだった丘。昔と変わらずに僕を迎えてくれたその場所に見知らぬ少女が一人、空を見上げていた。
「今日みたいな空は見ていると悲しくなります」
僕には優しく見えた空は彼女にとってはそうではないらしいかった。
彼女の名前は初葉。僕の母の世話をしているという。
初葉に母の元へと案内された僕はつらい事実を目の当たりにする。
12年ぶりに再会した母に僕に関する記憶はなく、初葉のことを本当の娘だと思いこんでるのだった。
季節は一回りした。
母はまだ僕に心を開いてくれていない。
僕と、母と、初葉と、三人の時間は止まったままだ。
でも止まっているのはほんの小さな空間だった。
時間は刻々と、ただひたすら一つの終着点に向かって流れ続けていた。
たくさんの人たちのたくさんの思惑の中で、なんのため、誰のためにあるのか分からないものが、
ただ、見つけてもらえるのを、
ただ、待っていた。
丘の上で見る薄水色の空はなんだかとても近くにある気がする……
今年も僕はそう思った。
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高野 宏明(たかのひろあき)5歳の頃に母と別れ今いる町に引っ越してくる。 町に降る硝子玉の在処を探る能力を持つ。 |
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西宮 初葉(にしみやういば)幼いころから宏明の母と住むようになる。言動は幼さないが芯の一本通った強さを持ち合わせている。宏明の母の実家の決まりで外にでたことはなく、宏明と会うようになってからは外に興味を持つようになった。ほんわかした雰囲気でいつも笑顔を絶やさず、他人に対して思いやる心を持っている優しい娘。 |
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猪狩 真希(いがりまき)宏明と中学時代からの友人。本人は自覚していないが、かなりの方向音痴。 勝ち気でがんばりや。小さい姿で駆け回る姿はどうにも小動物チックで、男子にも女子にもかわいがられている。姉御肌で、面倒見がよい。気が利くし、勘は鋭いが「恋愛」については鈍い。 中学の頃聡と宏明のコンビが危なっかしいのでなんととなく気にしてちょっかいを出しているうちにいつの間にか仲間に加えられてしまっていた。靴はいつでもスニーカー。 |
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沢田 小夜(さわださよ)幼い頃に主人公の家の隣に住んでいた主人公の幼なじみ。 宏明がよく通っている駄菓子屋の孫娘。10歳のころ、都会へ引っ越していったが最近になって家族と一緒に平郷へ戻ってくることに決まり、学校がある小夜だけ祖母の家に先に引っ越してきた。 都会っ子で割と強引なところも。意志の強そうなきりっとした目元、顔もスタイルも完璧。運動も勉強もそつなくこなし、ファッションセンスもぬかりない完全美少女と評判が高い。 |
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近江 聡(おうみさとる)主人公の中学の時からの親友。成績優秀、スポーツ万能だけどいつも事件を起こして先生たちを驚愕させる困ったやつ。のほほんとしてるがたまにどぎついことを言う。行動力があるので頼りにされるが、自分のやりたいこと以外はあまり乗り気ではなく適当にあしらってしまうところがある。だが、男らしさとその行動力が女子には受けるようで、中学の時は生徒会長だったこともあり今年入ってきた一年女子の間では有名。 |
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高野 里子(たかのさとこ)宏明の母。初葉と暮らしている。 |
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高野 英晴(たかのひではる)宏明の父。仕事の関係で宏明とは最近会っていない。 |
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小町 紀子(こまちのりこ)家政婦。初葉が学校に行っている間、宏明の母の世話をしている。 |
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沢田 文(さわだふみ)平郷駅の商店街で駄菓子屋を営んでいる小夜の祖母。 細目でいつも笑顔。白髪のおばあさん。 腰が曲がっているが元気いっぱい。 |